雨〜始まりと終わり〜

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  第三話 水面に響く波紋のように 1  

ロレイヌがユウリに助けられてから3日目の日の朝、ロレイヌは熱中病も治り生来の体力まで回復していた。
 ロレイヌは寝台から起き上がり、体を伸ばした。この3日間というもの病人として扱われたため、まったく体を動かしておらず体がなまっていた。体を伸ばせばバリバリと音がするような気がする。
 そうしていると扉が勢いよく開き、顔を覗かせる。太陽を思わせる髪と瞳。まるで新雪のような白い肌、そこに赤く彩られた唇。絶世の美女、その台詞が良く似合う少女、ユウリ。
 彼女はひょこりと顔を見せると一瞬驚いたような顔をし次いで、苦虫を潰したような顔をし、そして笑った。そんな表情豊かな彼女を羨ましく思いながら彼は彼女に問いかけた。どうしたのか、と。
「あっ、うー、もう大丈夫かなと思って。だいぶ良くなった?」
「ああ、もう大丈夫かな。少し体がなまってるけどな」
 それに彼女は笑い、しょうがないよ、と続ける。
「ずっと寝たきり状態だったからね」
「ああ、出させてくれなかったからな」
 苦笑しながら頭を掻く。主語のない言葉でもユウリに誰のことを言っていたのかすぐにわかった。それはティエイラとキストのことだ。彼らは完全にロレイヌの熱中病が治るまで寝台から彼を出さなかったのだ。そのおかげでユウリはロレイヌの世話をずっとする羽目となった。世話を焼いている間彼らはたくさんのことを話した。ロレイヌがここにいる理由や、特にロレイヌが旅をしてみてきたこと聞いたことをユウリはたくさん聞いた。
「もうそろそろ行くの?」
 唐突な問いにロレイヌは何を言っているのか頭を傾げ、そしてユウリが何を指しているのか悟った。ユウリはロレイヌがもうすぐ旅に出るのかと聞いているのだ。
「そうだな、もうすぐ出るけどそれまではお世話になったお礼でもしていくよ。男手が必要なこととか」
「・・・・・・大丈夫だよ。こんなところに長くいても楽しくないでしょ。この山を抜けると町があるからそこでなら楽しいことたくさんあると思うんだけど」
「そうか。でもやっぱ、お礼はしていくよ。だから何でも言ってくれれば手伝うから」
「・・・・・・わかった。じゃ、ご飯できてるから来てね」
「わかった」
 そういってユウリはすぐに扉から顔を離したのでロレイヌは知ることがなかった。ユウリがひどく辛い顔をしていたことを。

 ロレイヌはユウリが扉から去っていくとゆくっりと目を瞑って、夢を思い出した。この3日間見続けた夢を。
黄金の光と伸ばす手、収縮する光、追いかける自分、消えた光。
 どうして繰り返しこの夢を見るのかはわからない。どうしてこれほどまでに強烈に記憶に残るのかその意味を知る術はない。
 瞼を上げる。
 その瞬間、ロレイヌは固まってしまった。間近にあったのは栗色の瞳を持つ女性。触れたら折れてしまいそうなほど細い女性は、どうしたの、とでも言いそうな顔をしてロレイヌを見ていた。あまりの近さに離れてください、と言おうとした直後、ティエイラはすでにロレイヌ傍から離れていた。何が起こったのかと思いきや、キストがティエイラを引き寄せていたのだ。その顔が怒って見えるのはロレイヌの気のせいではないだろう。キストとティエイラは目をあわせて見詰め合っている。
「ティエイラ、」
「あなただけよ、キスト」
 キストが紡ごうとした言葉を掻き消すようにティエイラは告げた。そこにはもう二人だけの世界が広がっている。ロレイヌなどすでに蚊帳の外である。
 わざわざいちゃついているのを見せるためにここに来たのかと問いたくなってしまう光景だったが、そこはぐっと我慢し静かに部屋を出ようとしたその時、後ろからむんずと襟首を掴まれ、ロレイヌは危うくこけそうになった。すんでのところで足を踏ん張りこけることは免れたが、何をするのだと睨みたくなってしまう。が、そこはこの3日間で覚えたことであるが何も口に出さないほうが得策なので、ただ静かに振り向いた。その先にあったのは極上の笑顔をした最強の夫婦だった。
 思わず回れ右をして逃げ出したくなるその笑顔にロレイヌは頬を引きつらせた。ユウリがロレイヌの看病をしている間もこの夫婦(主にティエイラ)はこの笑顔を向け、嫌がるユウリを問答無用とばかりに連れ去っていったのだ。ユウリがその笑顔に何度も負けたのは言うまでもない。ゆえにロレイヌは悟ったのだ、この笑顔からは決して逃げられないのだと。
「ユウリから聞いたわよ? 手伝ってくれるんだってね。君はユウリを手伝ってね?」
「ああ、もちろん食事が終わってからでいい。それからユウリに聞いてくれれば何かしら手伝う仕事をくれるはずだ」
「・・・・・・」
「さあ、早く朝食を食べようか。ユウリが待ちくたびれているはずだ」
 二人はそういって部屋を出て行く。
 自分から進んで手伝うといったことなのであるが、なぜか強制的に手伝う羽目になったような気がするのは気のせいということにしておこうと思ったロレイヌであった。
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