雨〜始まりと終わり〜

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  第四話 心震わせ儚き夢を 1  

長い間見ている夢がある。それは毎夜毎夜忘れることをまるで罪だというかのように彼女を襲い、その恐怖を体に刻み込む。
 その視界に映るのは襲い掛かる鋭利な刃、それにより辺りに飛び散る真っ赤な水。悲鳴を上げることすらできず、それをただ見つめていた。体には死に勝るほどの強烈な痛みが脳髄まで駆け抜ける。
 下卑た笑いが響き渡り、周りにあるものすべてを破壊する。まるでそれは王者のようで、その目を見ただけで体を竦ませる。
 次第に意識が浮上してくるように意識の端に聞く悲鳴が脳裏にこびりついて離れない。

 はっとして起きるとまだ太陽が顔を出したばかりだ。長く深いため息をつくと、彼女は起き上がり窓を開けた。ひんやりとした清浄な空気が部屋の中にはいり、彼女を癒すようだ。たとえそれが束の間の気休めだとしても彼女にはそれで十分だった。許されるとは思ってはいない。思ってはいけないとわかっているから。
 ぎゅっと拳を握り、未だ体に残る痛みに耐えた。いつからこの痛みに耐える日々が続いているのかすら彼女は覚えてはいない。けれど、この痛みがもうすぐ終わることだけはわかる。緩やかに体に残る痛みが長く、夢が鮮明になる。そして、夢で見たただ一つ体に痛みを伴いわない夢を見たことによりそれは本当であることを彼女は知った。

 夢が夢でないと知ったのは物心がついた頃だっただろうか。
目を開けるとそこは白乳色の世界が広がっていた。その中に一つ異質なものとして存在する彼女は、遠くから迫ってくる光を見た。それは一直線に彼女に向かい、彼女を射抜いた。
 その瞬間彼女の脳裏には膨大な量の記憶が押し寄せてくる。
『い、いやあああああ』
『お願いしますっ』
「あ、痛い、ああ・・・・い、だい」
『助けてください』
 頭が割れそうなほどの強烈な痛みが彼女を襲った。それは今まで体験したことのない痛みで、彼女はその場にのた打ち回った。額には脂汗がびっしりとつき、呼吸は乱れ、体を掻き毟りたくなる。

 ようやく痛みが治まった頃には彼女は疲れ果て、意識すら朦朧としていた。ぐらぐらとする頭を抱えながらうっすらと目を開ける。頭は未だがんがんと響き立ち上がることさえ困難な状態にある。遠くから何か音が聞こえるのを意識の端で捉えながら彼女は意識を失った。
 それは確かにこう囁いた。
――死を忘れるな。薄幸の娘御よ、短命なるその命残酷なる死をもって償うがいい。

***

 ふっとそれは微笑し、妖艶に、優美に、そして残酷に哂った。
「時間は迫っている。約束を果たそうか、キスト・ストリアル、ティエイラ・ストリアル、ユウリ・ストリアルよ」
 15年前に交わされた約束は、もうすぐ終焉を迎えようとしていた。
「15年という期限の間でよくやってきた。夢は襲い、時は無常にすぎていく。いつ消えてもおかしくないという恐怖にさらされながら、ここまで生きてきたことは感嘆に値しよう」
 ふふっ、と笑いながらそれは立ち上がった。否、立ち上がるという表現は正しくはない。なぜならそれに実体はないのだから。声だけが辺りに木霊し、大気を震わせる。
 それはこの15年をすべて見ていた。『歪み』の発端としてかかわることを定められていたからだ。そしてこの15年をどう生きるのかつぶさに見た。
 そして決めたのだ。
 ある一つのことを。
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